なでしこリーグ2部に昇格しヴィアマテラス宮崎は、県内のメディアに取り上げられることが増えました。破竹の快進撃が主な理由ですが、もう一つ別の理由があります。それが人権啓発活動です。しかし、クラブに聞くと「啓発」を堅苦しく捉えていないと言います。
「このクラブと新富町(ホームタウン)があらゆる人をフラットに受け入れる姿勢を示しているだけなんです」
関係者からの声も同様に聞こえてきます。ヴィアマテラス宮崎には自分自身を男性とも女性とも決めないクエスチョニング(LGBTQ+のQ)と自認している選手が所属しています。
2023年6月25日、ヴィアマテラス宮崎は、ホームゲームをPRIDE MATCHとして開催しました。 6月は「プライド月間」と呼ばれ、世界各地でLGBTQ+の権利を啓発する活動が行われるからです
広報担当の選手が作成したスタジアムマップ
試合前に「JFAファミリーフットサルフェスティバルin新富(人権サッカー教室)」を開催。会場には人権イメージキャラクターの人KENまもる君と人KENあゆみちゃんが来場。プレーを楽しむとともに家族で人権について考える場となりました。
人権イメージキャラクターの人KENまもる君と人KENあゆみちゃん
バラエティに富んだ催しが盛りだくさん行われました。来場プレゼントとして人権啓発コラボグッズのオリジナルクリアファイルと人権啓発リーフレット等を配布(800部)。宮崎県立児湯るぴなす支援学校のブースでは生徒作成のポストカード等も配布しました。選手からの人権メッセージの掲出、PRIDE MATCHのシンボルであるレインボーカラーにちなんだ新富町産7種類の野菜販売、宮崎県シンボルキャラクター「みやざき犬」のダンスパフォーマンス等々が話題を呼び、新富町フットボールセンターには、クラブ史上最多の1,323人が集まりました。これは新富町の人口の約1割に相当します。
新富町産7種類の野菜を販売
「プライド月間」に合わせた啓発を行うタイミングで、ちょうど「LGBT理解増進法」が施行されたこともあり、宮崎県人権啓発推進協議会(事務局:宮崎県人権同和対策課)はPRIDE MATCHの開催に協力しました。行政が人権に関する勉強会等を開催すると、どうしてもこうしたテーマに関心が高い人が集まりがちです。しかし、PRIDE MATCHは主な来場目的がサッカー観戦やイベントなので、幅広い層と人権啓発活動の接点を設ける絶好の機会となるのです。
会場に設置した宮崎県の告知ブースを担当した大原龍星さんはヴィアマテラス宮崎だから成功した面があると言います。
「選手の皆さんが、来場されたお子さんに声をかけたり、ツールを配布したり積極的な取り組みをされていました。地域に愛されるチームだからこそ、こうした活動に真摯に取り組んでいただけるのだと思います。宮崎県もワンチームとして一緒に活動できました。試合も勝利することができて良かったです」
県庁内で、今回の取り組みの評判は上々で、ヴィアマテラス宮崎の選手が県政テレビ番組のLGBTQ+特集にも出演しました。宮崎県は、12月の人権週間でもヴィアマテラス宮崎と一緒に情報を発信していく予定です。
宮崎県人権同和対策課とのコラボグッズを配布
宮﨑珠里選手は自分よりも若い世代との交流が生まれたことが嬉しかったと言います。
「PRIDE MATCH当日は、いろいろなイベントを開催したので、普段あまりチームと関わっていない年齢層の人たちも来場してくれて一緒に楽しめました。人権という難しいテーマをガチガチに考えるより、サッカーに触れながら考える機会にできたのが良かったです」
福丸智子選手はプレーの傍ら、チームと新富町の広報業務に従事しています。PRIDE MATCHは宮崎県全域で大きな反響を生み出しましたが、それは、クラブの普遍的なスタンスを伝える機会だったと考えています。
「PRIDE MATCHを開催するからだけではなく、チームとして、日頃から誰でも受け入れる体制にあるということを意識しながら周知活動を行っています」
宮﨑珠里選手は地域との関係も、こうした活動をスムーズに行える要因だと話します。
「ヴィアマテラス宮崎が誰でも受け入る居場所として活動できるのは、新富町や地域の皆さんのおかげだと思います。宮崎県以外の地域から移籍してきた選手が多いチームを受け入れていただいているからこそ、自分たちも居場所だと感じるし、それが、PRIDE MATCHという形になって表れたのだと思います」
地域とクラブのオープンでフラットなスタンスが共感を広げ、この町に、また新しい仲間を迎え入れることにつながりそうです。
Text by 石井和裕